逃避初日!




きっかけなんて、

そんなものは些細なこと。


それから
どう行動するかが、

大事。





あぁ、なんか今日はよく寝た。だなんて体の関節が語るように軋む。

カーテンの隙間から射し込む朝日が暗闇に慣れた瞳には酷で、未だに目をあけることができない。

でも、起きなければ。

この硬く閉ざされた瞳を開けなければ。

でも…

寝すぎて、眠い。


だるい。


あぁ、このまま二度寝してしまいそう…
だけれどアヤナミ様に怒られるのだけは勘弁だ。

そう思うのなら一分一秒でも早く起きなければいけない。


やっとの思いで瞳を開けた。

やっぱり光が眩しい。

寝返りを打つようにもぞもぞと布団の中で動き、枕元に置いている目覚まし時計を手に持って時間確認。

と同時に、


「ぎゃぁあぁぁあああッ!!」


叫び声。


えっと、出仕の時間は9時。

今の時間は10時23分。

一分一秒でも早く起きなければいけない。だなんて状況は当の昔に過ぎ去っている。



もうここまで時間が過ぎているのなら今更急いでも無駄だ。

開き直ろう。



「よし、」


これでいい。と布団に潜り直せば、頭に衝撃が走った。

ゴンッという鈍い音と同時に放たれる殺気。


この殺気を読み取れば、誰だかがわかり、ムチではなくげんこつでまだ良かったとさえ思う。


「アヤナミ様、痛い…」

「何が『よし』だ。こんな時間になっておきながらまだ眠るつもりか。」

「いや、あのですね、この際2時間遅れるのも5時間遅れるのも大して変わりはないと思うんですよね。」


頭をさすりながら身を起こせばお怒り顔のアヤナミ様と目が合った。


「って、なんで私の自室にいるんですか…。乙女の部屋にノックもなしに入るなんて紳士らしからぬ行動ですよ。」

「貴様がいつまでも起きてこないからだ。仕事だ、午前中までに目を通して午後の会議に案件を出せ。」

「…ったく、女の子を殴り起こして人使いの荒い…」

「遅刻しても詫びの一言もない無礼なやつに言われたくはない。」

「どーもすみませんでしたぁー。」


軽く棒読みで謝ればもう一発げんこつがふってきた。


「ぎゃっ!い、痛い…。女の子殴るなボケぇー!!」

「逆ギレとはいい度胸だ貴様。」

「開き直りと逆切れは最近の若者の得意分野なんですー!」


なんだかんだいいながらも、アヤナミ様は私の減らず口に付き合ってくれる。
そんな、いつもの朝。





「おはよー。」


遅刻したにも関わらず、いつもと同じように執務室へ入る。


「おはようございます名前さん、今日は一段とごゆっくりでしたね。」

「夢見が良すぎて起きたくなくて♪あれ、クロユリくんは…?」

「お昼寝中ですよ。」

「後で起こさないように寝顔見に行かなくっちゃ!」


だなんてカツラギ大佐やハルセさんと笑いあう。


が、明らかにふて腐れている人物が一人…。


「コーナーツーくんっ、ご機嫌斜めだね。」

「…遅すぎです。」

「真面目だなぁ、この子は。大丈夫、私、ヒュウガと違って遅れてはくるけど来たらちゃんと仕事するもん。」

「そうですけど…」

「あだ名たんもコナツもひっどいなぁ〜。それじゃまるでオレが仕事してないみたいな…」

「「実際問題してないじゃない(ですか)」」

「うわ!声までそろえちゃって酷っ!!」


ショックを受けるヒュウガを尻目に、寝起きでまだ固まっている体を解すように肩を回しながら自分のイスに座った。

アヤナミ様にもっとも近い席。
アヤナミ様のべグライターだけが座れる席。

遅刻はするけど私、これでもアヤナミ参謀長官のべグライターなんですよ。




アヤナミ様から渡された書類に目を通し、無言で書類に筆を滑らせてから2時間。

時計が13時を差そうとしていたことに気がついたのはヒュウガが私をお昼に誘ったのと同時だった。

やば、会議15時からなのにいつの間に…


「もうそんな時間?」

「お腹空かない?皆もうお昼食べに行っちゃったよ。」

「ん〜でも、今ちょっとキリ悪いし…。誘ってくれありがと、でもここで止めたくないからさ。」


ごめんね。とヒュウガに謝れば、あっさりと「じゃぁ待ってる」と返答されてしまった。


「い、いや、お腹空いたでしょ?別に待ってなくてもいいよ。」

「オレが待ちたいんだから待たせてよ。」


うっ、今のはちょっとクラッと来ましたよヒュウガさん。


何今の、恋人みたいな甘い会話、何っ?!


「じゃぁ…急いで終わらせるから…。」

「うん♪」


皆ご飯を食べに行っているせいで二人きりのこの広い執務室。

日頃もう少しうるさいせいかなんだが落ち着かない。


「…」

「…」


いや違う。

この広い執務室が落ち着かないんじゃない。

二人っきりの部屋で、しかもこんな至近距離で、目線を少しあげれば重なる視線が…落ち着かない。

ペンを握る手に力が入る。
頭が回らない。

なんで?
なんでこんなに緊張してるの?!


(あっ、字間違えた!!)


修正テープを取ろうと手を伸ばせば触れたヒュウガの手。


「はい。」


その大きな手から私の手に乗せられた修正テープ。


「…ありがと。」


どきどき、スル。
ドキドキ、する。


なぜか触れた箇所だけが、熱い気がした。



「…あだ名たん、好きな人って、いる?」

「へっ?!すすす好きな人っ?!い、いないけど…」


多分。


「ふ〜ん。」


え、なに、その意味深な『ふ〜ん』は。


「何、ヒュウガはいるの?」

「いるよ。いるよ…、目の前に…」


チュッと音を立てて私の無防備な唇に触れたヒュウガの唇。


びっくりしすぎて瞳を閉じる暇もなく、唇が触れるその瞬間まで交差していた二人の視線。

いつになく真面目なヒュウガの視線に心臓辺りが勢い良く跳ねた。



「ッ///へ、変態っ!!」


バチンッと思い切りヒュウガの左頬を叩いて、午後の会議に提出すべき書類なんて忘れて、執務室を飛び出した。





…きっかけなんて、

そんなものは些細なこと。


それから
どう行動するかが、

大事。


そんなのわかっているのに、


貴方の前では
『素直になれない』

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